逆転
メンゼルや公式機関の分析では,信頼性の高いUFO目撃の説明に逆転をよく持ち出している.放射冷却あるいは大気の沈降によって生ずる逆転は,比較的一般的な気象現象である.
わずかな高度差で温度差が大きい,急激な逆転が生じることがすでに知られている.これを逆転層といい,ぼやけた像を作り出す砂漠の蜃気楼の原因でもある.
この種の蜃気楼を観測するには,観測者の目の位置が,逆転層の近くか,あるいは逆転層の中にある必要がある.そして,偽像となる目標も逆転層中かその付近にある必要がある.逆転層は基本的に水平であり,蜃気楼のところで述べたように,実際の減率で生じる屈折異常は,水平からごくわずかに離れたところに限られる程度のものである.これは気象光学では常識である.
しかし,メンゼルは,クライド・トンボー博士が1949年8月にラスクルーズで上空に目撃したUFOを,“逆転”による屈折や反射で説明している.
私は,この主張が定量的ではなく,非現実的であることを別のところで考察したので,ここでは詳述しない.もし逆転がメンゼルが仮定したような光学的障害をもたらすなら,大気を通して星を観察している天文学者は研究に支障をきたしていただろう,という点を指摘するにとどめる.
メンゼルの著作では,他の大気光学異常も紹介されている.彼は何度も,もやの層が星像の見かけの大きさを拡大すると述べている.
彼は明らかに,天文学者はよく知っている地平線付近の屈折効果による垂直方向の拡大ではなく,全方向への放射拡大という意味で述べている.
北極地域を飛行中の空軍機に搭乗していたメンゼルは,シリウスの像が10分(月の直径の1/3)より大きく拡大されたのを目撃した,と述べている.
私は,多くの天文学者にこの目撃について聞いてみた.すると誰もそのような現象を天文学者が観測したということを知らなかった.
それには,もやの層の屈折率が特異な軸対称分布をしており,さらに,奇跡的なことだが,高速で飛行中の航空機にそれがずっと随伴していなければならない.メンゼルの報告を屈折効果で説明するのはまったく不可能のように思われる.
メンゼル博士のUFOに関する著作は明らかに,人々のUFOに対する態度にかなりの影響力をもっている.私は,彼の著作物は有害図書だと考えている.
科学の周辺領域に属する,論争の的となっているこの問題について,意見の違いが少なければ,私はここで激しい批判は行わなかっただろう.しかし,メンゼル博士の気象光学によるUFOの説明の大部分が,完全に間違っているのである.それをここで明確にしておきたい.
ここでは行わないが,メンゼルと同内容の公式筋の説明に対しても,同様の批判は可能である.
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