2.ケース32.ワシントン州オデッサ,1952年12月10日 考察
“おそらく気球”という結論は,単に“丸くて白い,きわめて大きい”という目撃証言を根拠にしていただけだが,進路を瞬時に反転した点,時速600マイルのジェット戦闘機が15分追跡しても接近できなかった点を無視しており,納得できるものではない.
その高度で物体とF-94が受ける風の影響は無視してももよい.どちらも“追い風”となるからである.15分あれば,F-94は同高度の気球に対して150マイル移動できるはずだ.
機上レーダーは,10〜15マイルまで接近しなければ,スカイフック気球に搭載されている機器用パッケージを捕捉できない.それにも関わらず報告は,しばらくの間F-94はその10倍の距離で目標をレーダー捕捉し,追跡していたと述べている.この識別不能目標を“気球”に分類するのは,報告内容と明らかに矛盾している.
一方,このオデッサでのF-94による目撃に対するメンゼルの評価(参考文献25,62ページ)はまったく問題外である.メンゼルは明らかにこの事例の完全なファイルを持っていた.なぜなら参考文献7の報告より詳しいことが少し書かれているからだ.それは以下のようにルッペルトが書いたもの5)と同様のものである.
「赤みがかった白くて弱い光が見えたが,軌跡や排気は見えなかった.パイロットは迎撃しようとしたが,物体は驚くべき離れ業をやってのけた.機の前方でシャンデルを行い,加速して距離を開けて静止し,信じられない速度で衝突コースを直進してきた」
メンゼルの説明によると,衝突回避のためパイロットはバンクしたが,その後物体を再び視認できなかった.ただレーダーでは短時間捕捉することはできた.メンゼルは全体的に次のように解釈している.
「東方の地平線上にシリウスが昇ってきていた.正体不明の物体の方位とまったく同じである.大気の屈折が問題の現象をもたらしたのだと思われる.星の蜃気楼をもたらす大気状態は,同時に異常なレーダー反射も引き起こすだろう」
確かに,観測者の水平方向すぐ上の星は瞬き,像のずれは激しい.だがこれは定量的に考える必要がある.星像の位置のずれが非常に大きかったとしても,数分である.したがって,それが原因でシリウスがシャンデルを行ったとパイロットが報告したのだと提起するのは,天文学を無視するか,パイロットが低能だと見なすことになる.
しかし実際には,メンゼルは計算ミスを犯したようで,そのことは簡単に示せる.1952年12月10日太平洋標準時午後7時15分にはシリウスはワシントンから見える位置にはなく,東の地平線の下約10度に位置していたのである.
メンゼルは,レーダー反射は“大気状態”の異常が引き起こしたものである,と簡単に述べているが,これも問題外である.高度26,000フィートを水平に飛行している航空機が,伝播異常が原因で地上反射を捕捉することはない.
このようなひどいこじつけが,メンゼルの説明にはいくつも見られる.共通しているのは,定量的に現象を説明しようという意志がないことである.
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