4.ケース38.ワシントンD.C.,1952年7月19日 考察
私はこの事例に関係した5名のCAA要員および4名の民間機パイロットにインタビューを行った.そして,十分理解されているレーダーの伝播状況を調べるためにラジオゾンデデータをチェックし,その後公表されたCAA報告を調べた.
この複雑な目撃が蜃気楼に類似した異常なレーダー伝播の結果であるという公式説明に対して,十分な反論を行うには,非常に分量のある考察が必要となるだろう.
屈折率勾配は,装置が旧式であることを考慮しても,ダクティングやトラッピングを生じるにはあまりにも低すぎた.そして,より重要なのは,未確認目標に対する目視観測の仰角は,過去に観測されたことのあるもっとも異常なレーダーダクティングの条件下であったとしても,あまりにも高すぎる,ということである.
飛行物体を発見するために地上レーダーで誘導されたあるパイロットは,飛行高度よりかなり上方に物体を目撃している.そして,それらの物体の機動は,完全に異常なものであった.
ある乗員は,正体不明の光体が飛び去るのを目撃した.それと同時に,物体の反射がARTCレーダースコープから消えるのを,CAAのレーダー操作員が観測している.
航空機パイロットの目撃は無視して,報告されている地上からの肉眼目撃のみを扱うとしても,レーダーダクティングが起こり得ない弱い低高度での逆転(1.7℃)が蜃気楼効果をもたらした,という公式機関の報告は定量的に間違っている.
この件について私と話し合ったパイロットたちもそうだったが,インタビューしたCAAレーダー操作員たちは,当時も今も,異常伝播説はまったく問題外だと考えているようであった.
実際に,CAAの上級管制官ハリー・G.バーンズは私に,未確認目標のエコーは,“異常伝播条件下で地上反射を捕捉したときのように,ぼんやりしたものではなく”,強くて明るいブリップであり,“異常伝播説は絶対に受け入れられない”と述べている.
バーンズと同様,まだFAAに在籍しているハワード・S.クックリンは,当日夜,管制塔におり,別のレーダー(短距離ARSレーダー)を操作していた.
航空機の乗員たちは,管制塔レーダー上の未確認目標と同じ位置に,未確認の光体を観測(と同時に彼とジョセフ・ザッコーは,DC空港の管制塔からそれらの光を目撃)しているが,そのとき彼は,航空機乗員たちとの無線交信が傍受されているのではないか,と感じたということである.
バーンズたちとARTCレーダーを注視していたジェームズ・M.リッチーは,その夜何度もレーダー上の目標捕捉位置とパイロットの観測が一致していたという重要な点を認めた.
彼もバーンズと同様,その夜勤務していた経験のあるレーダー管制官たちは地上反射に惑わされるようなことはない,と話していた.
この事件について私が話した航空機の乗員の中に,キャピタル機で飛行していたS.C.ピアマンがいた.彼は,飛行物体が捕捉されている空域を調べるために,地上レーダーで誘導されたパイロットの一人だった.CAA管制官がレーダー観測に基づいて無線で連絡してきた目標の針路や位置と一致する光体を,彼は機の上方に認めた.他の航空機乗員も同様の話をしてくれた.
以上のように,ワシントンナショナル空港事件の公式説明は,私には受け入れがたいものである.
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