d.発光体の見かけの動きに関する報告
この部分が,羽田の事例ファイルの中で最もあいまいな部分である.しかし証言を総合してみると,光る物体が明確な運動をしていたことを示している.あいまいさの原因は,主としてマルヴィン大尉がIR-35-52報告用に,それも発生後1週間もたってから,事件の要約をしたことにある.マルヴィン大尉の要約では,次のようになっている.
「物体は,東の方向に2度消え,2度現れた.目撃者は,物体の消失が,光が弱まったこと,物体が回転したこと,ものすごい速度で飛び去ったこと,のいずれに起因するのか,よくわからないようだった.これは消失する時点で,その物体が小さな光としてしか捉えられなかったためである.しかし,物体が接近したときに見かけの位置と速度を少しずつ変えながら,水平方向に移動するように見えた点では,目撃者たちの証言は一致している」
最後のコメントを除けば,マルヴィン大尉の要約は全体として,物体が視線方向にだけ動いたこと,あるいは,見かけの明るさが内在的または外在的な原因によって時間とともに変化したため,目撃者が物体の接近と後退を錯覚したにすぎないこと,を示唆しているようにとられる恐れがある.物体が視線方向にだけ移動したことはおそらくありえないことである.なぜなら,そのためには羽田の目撃者が偶然,横方向の速度成分がまったく見えない位置にいたと想定しなければならないからである.
マルヴィン大尉の要約と異なり,A兵士は横への速度成分も含めて,物体が独特の動きを示したと述べている.その証言は「双眼鏡を通して物体が2度消えるのを見ました.物体は東の方向へ移動し,ものすごい速度で上昇しました.その速さは,どんなジェット機でもかなわなかったでしょう.物体は2回消えましたが,そのつどまた現れました.3回目に消えたのは,ジェット機が接近してきてからで,そのときはもう現れませんでした.物体はジェット機の接近がわかったようです.物体の大きさですが,私には想像もつきません」というものである.
ここで,A兵士が,その証言の別の部分で,物体目撃の方向を北北東としていたことを思い出していただきたい.その物体は「東の方向へ移動した」という彼の証言は,明らかに視線以外の方向への運動を意味している.もし,視線方向以外の運動がなかったとするならば,彼の証言は,「急速に北北東の上空に消えた」のようになっていたはずである.目撃者の直接の証言のほうが,他人が作った要約よりは重要性が高いはずであるから,物体の動きには視線方向の後退だけでなく,横方向への後退成分もあり,上方と東方向への動きもあったことを認めなければならないだろう.
発光体の角直径がかなり変わったことは,ファイルのいくつかの部分で明らかにされている.上で引用した部分には,“塔に最も接近したときの光の大きさ”という表現があるし,別の部分には「最も遠く離れたとき,光の大きさは,羽田のほぼ真東に出ていた金星[木星]よりやや大きい程度に見え,明るさも,それより幾分明るい程度だった」という証言がある.木星はそのとき矩に近づいており,その角直径は約40秒だった.肉眼では,分解能をずっと下回る角直径同士を比較することはできないので,この証言から安全に結論づけられることは,物体の円盤上の発光部分が,目で見てわかるほど小さくなったことと,目に見える範囲内で最大距離に遠ざかったとき,その見かけの明るさが木星と同等か,それより幾分明るい程度にまで落ちたことである.このことからも,物体のピーク時の明るさは,木星の-2.0より相当明るかったことがわかる.この結論はすでに述べた別の議論からも導かれている.
物体は,後退,東方向への動き,上昇後の消滅という運動をみせたが,これ以外に少なくとも1回姿を消している.このときの消滅時間はかなり長く,シンチレーションやその他の気象光学効果では説明できない.A兵士は「ランプを半分ほど渡ったとき,1回目の消滅が起こりました.このときは,約15秒後にほぼ同じ場所に再び現れました」と述べている.羽田上空15〜16,000フィートの高さには千切れ雲が出ており,それより下の層では,ごく少数の雲が散見された.その夜は満月であったから,もし物体を目撃する管制官の視線の方向に雲が流れてきたとすれば,管制官は当然その雲を見ていたはずである(上層の雲は薄かったと思われる.マルヴィン大尉が報告書に述べているところによれば,「F-94の乗員は,視程が非常に大きかったと述べている」).目撃者と遠くの発光体の間に薄い雲があった場合,その雲は発光体の明るさを弱めるが,その角直径を大きく見せる効果もあり,ここで報告されているような,小さくする効果はない.以上の点から,私の考えでは,発光体の“消滅”は雲が原因で生じたものではない.
以上が,羽田で目撃され,地上と迎撃機搭載レーダーで観測されるに至った明るい発光体についての報告と,そこに含まれている主要な問題点である.これらの問題点と,さらに重要な目撃事実の検討を始める前に,ブルーブック報告とコンドン報告が,目視報告をどのように説明しているのかを見ておこう.
マクドナルド博士のUFO研究――羽田空軍基地UFO事例
Case 3. Haneda Air Force Base, Japan, August 5-6, 1952.
in "SCIENCE IN DEFAULT:
22 YEARS OF INADEQUATE UFO INVESTIGATIONS"
James E. McDonald, Institute of Atmospheric Physics, University of Arizona, Tucson
(Material presented at the Symposium on UFOs, 134th Meeting, AAAS, Boston, Dec, 27, 1969)
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