私がルッペルトの「未確認飛行物体に関する報告」という本を知ったのは、1960年代のはじめ、CBA発行の「空飛ぶ円盤ダイジェスト」の連載記事であった。ある日、CBAの「未確認飛行物体に関する報告」翻訳現場を覗くと、原書はバラバラ寸前で、セロテープでページを補強してあった。翻訳前に相当読み込まれていたらしい。私が「空飛ぶ円盤ダイジェスト」の編集を担当することになって、その翻訳文を読むと、ルッペルトの文章はややこしく、直訳のままでは意味不明の箇所があった。
また原書には図とか写真はまったくないので、内容を読者に理解させるべく、挿絵や図などを挿入したが、月刊誌なので十分な時間がなかった。それでもカール・ハートがラボックライトを連続撮影した事件については、その山場の原文を表紙にあしらい、図解をメンバーに依頼して、自分としては満足な誌面をつくった。
残念ながら雑誌の休刊と共に、「未確認飛行物体に関する報告」の翻訳は中断した。私はルッペルトのロマンのカケラもない考え方と、空軍の特権を生かした自在な調査行動にあこがれを抱いていた。
またUFOの観測や撮影もアメリカは進んでいた。「電話連絡で通報を受け、各観測ステーションがUFOの飛来を待ち構えて撮影する」という機構など、進んでいるといわれる今の日本でも及ばない活動だろう。自衛隊と民間ボランティアの協力でそれが出来るか? おそらく、実際のところ100年たっても不可能だろう。
それはともかく、私があこがれを抱き、約30年間のあいだ、その全文を読んでみたいと希求していた「未確認飛行物体に関する報告」の完全翻訳版が、学術研究出版から出たという知らせを受けたときは本当に夢のようであった。
本を開くと、随所に写真が掲載されているが、この写真類は、相当の情報収集能力や調査能力がなければ集められないものである。ルッペルトの様々な顔写真、ドナルド・メンゼルのこんな真剣な顔写真は初めてみた。
写真類は特に軍事関係、航空機関係に詳しい。その点で、この書は単なる翻訳本ではなく、エドワード・J.ルッペルトという現代UFO史が生んだ、おそらくは最初のUFO研究家であり、UFO調査報道者としての仕事ぶり、空軍あるいは国家という圧力の下で仕事をした姿を、写真資料と共に世に伝える唯一の書と評価する。
全人類に公開すべき無数の優良UFOデータを隠し持つのが米空軍、というイメージの強いなか、かっては米空軍もUFOに対してここまで肉薄し、許容した時代もあったのだな、という古き良き時代を振り返る熟年世代と共に、活字離れといわれる若い世代にこそ読み継がれてほしいと願うものである。
2002年10月5日 天空人協会西日本 天宮 清
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