イギリス,レイクンヒース レーダー肉眼捕捉UFO事例 1956.08.13-14

G.D.セイヤー  国立海洋大気局


"UFO ENCOUNTER II, Sample Case Selected by the UFO Subcommittee of the AIAA"

Astronautics & Aeronautics, September 1971, pp60-64.


 

 以下に述べる“UFO論争の核になる第2の典型的な観測例”は,困惑させられる内容であるというだけでなく,多様な観測手段で捕捉されているために,AIAAのUFO小委員会が選んだものである.
“コンドン委員会”(コロラド大学UFO研究グループ)のメンバーであった著者は,問題のケースを詳細に論じるが,その解釈は行わない.それはA/A1971年7月号の第一のケースでも同様である.主な目撃者は高い能力を有しており,その任務中に事件に遭遇したのである.
 これら二つの説明不能事例の研究は,読者にとってUFO論争の土台となるだろう.
 我々は読者が技術者あるいは科学者として,独自の評価を行うことを望んでいる.

 

 

■序

 

 1956年の快い8月の午後のことであった.イギリス,レイクンヒース,航空路管制センター(RATCC)レーダーの主任管制官(アメリカ空軍下士官)が,ベントウォータースGCA(地上管制進入)レーダー班(地図を見よ)から“そちらのレーダーに時速4000マイルで移動する目標を捉えていないか”という連絡を受けた.
 このときから,記録されている中で,もっとも奇妙で困惑させるレーダー肉眼UFO事件が始まったのである.
 米空軍のプロジェクトブルーブックファイル(プロジェクトブルーブックは米空軍UFO研究機関の名称である)には,レイクンヒース,ベントウォーターズ事件に関する報告が含まれている.レイクンヒースに連絡がある前に,少なくとも3回,未確認レーダー反射像(URE)がベントウォーターズのGCA班によって追跡された.とても興味深い事件ではあったが,確実な肉眼,航空機レーダーによる捕捉は行われていない.
 これらの最初の三つのレーダー捕捉についての詳しい説明はジェームズ・マクドナルドの初期の論文(FSR 16,"UFOs over Lakenheath in 1956"(1956年レイクンヒース上空のUFO)1970.p9-17)にある.
「UFOの科学的研究」(バンタムブックス1969,のちにコンドン報告とよばれる)ではその件については触れられていない.関連するブルーブックファイルの入手が遅れたためである.
 コンドン報告では,はじめにレイクンヒースでの事件のみの説明がある.それは主任管制官が報告したものである.しかしそれはブルーブックファイルにはなかった.
 この別々の報告により,レイクンヒースでの出来事を順を追って紹介できる.ここでは,まず,ブルーブックファイルにあるベントウォーターズ基地での出来事に関する記述を紹介し,その後で,主任管制官のレイクンヒース事件についての説明を主として述べることにする.

 

 

ベントウォーターズ−レイクンヒース事件UFOマップ

 

 

 

■観測状況


 問題のベントウォータースGCA(これらのレーダーが捕捉した軌跡のプロットは地図を参照)で発生した4つの出来事は次の順序で起こった.

 


(1)21:30Z
1個のURE(地図では第1目標)がベントウォーターズのAN/MPN−11A型レーダーによって東南東約25〜30マイルの地点で捕捉された(Z時間,すなわち,グリニッジ標準時は,レイクンヒース−ベントウォーターズ地域での現地時間である).
 問題のUREは,同一の進路を維持しながら,すなわちまっすぐベントウォーターズレーダーサイトに向かって接近し,反対側である295度すなわち西北西の方向に遠ざかり,約15〜20マイルの地点で消失した.レーダー操作員は,問題のUREの平均速度を時速4000マイルと概算している.だが,30秒という通過時間では,時速4800〜6000マイルという値となる.そしてUREが,スコープ上の360度走査に要する2秒間に,5ないし6マイル移動したという操作員の証言から,時速9000〜10800マイルという速度が算出される.
 同操作員の報告によれば,“問題の反射像の輝点の大きさは,それがはじめて捕捉された時点では,通常の航空機と同程度であったが,レーダースコープを横切って消失した点に近づくにつれて,大きさと輝度は減少していった”.

 

 

(2)“数分後”すなわちほぼ21:35Z頃,12〜15個ものUREの一群が,ベントウォーターズ南西8マイルの地点にスコープ上で捕捉された(地図上の第2目標).これらの反射像は,“通常の目標によるもののように見えた”.問題の地上航空管制レーダーの故障かどうかを確かめるため,一連の正規のチェックがなされたが,故障はまったく見つからなかった.
 このURE群は一団となって速度を毎時80〜125マイルの範囲で変えながら北東に向かった,と報告されている.
 この集団はスコープ上でさしわたし“6マイルないし7マイルのあたる範囲”を占めていた.これら一群のUREはベントウォーターズの東北14マイルの地点に達したとき,“かなり薄くなった”.その後ベントウォーターズの東北約40マイルの地点に達してひとつの強い反射像に融合するまで追跡された.融合してできた反射像は,“同じ条件下でのB−36の反射像の数倍の大きさ”を示した.
 この一つになった反射像はベントウォーターズ北東40マイルの地点に10〜15分間静止してとどまったのち,北東に5〜6マイル移動して再び3〜5分間停止した.そのあと最後の動きを示し,21:55レーダー捜索範囲(50マイル)の外に出ていった.このURE群が移動の際に示した見かけ上の平均速度は,容易に計算できる.時速290〜700マイルである.(5〜12分の間に58マイル移動したからである.時間については各操作員によって食い違っている).

 


(3)22時ちょうど,もうひとつのUREがベントウォーターズ東方約30マイルの地点で捕捉され,同基地の位置を通過し,西方約25マイルの地点にいたるまでの直線上を移動するのが追跡された(地図では第3目標).追跡時間は約16秒.担当レーダー操作員は“時速4000マイル以上”と推定しているが,この移動距離と時間からは時速12000マイルに達したことになる.この目標の示したすべての反射像は,一番最後の反射像は薄くなったが,それ以外は通常のものだった.
 レーダー操作員によれば,このような反射像は“物体がGCAレーダー電波の輻射範囲の外に高速で飛び去った”ことを示していると言う.

 


(4)ブルーブックのレイクンヒース事件についての報告によれば,ベントウォーターズのレーダーは,22:55Z,1個の未確認レーダー反射像を,ベントウォーターズの東方30マイルに捕捉した(地図では第4目標).この目標は西方に向かって見かけ上毎時“2000マイルないし4000マイル”の速度で移動した.地図に示されているように,この第4目標の軌道は,消滅した地点を除けば,第3目標と同一のように見える.この第4目標は,ブルーブックの報告によれば,“基地の東方2マイルの地点で消滅し,そして直ちに基地の西方30マイルの地点を示すスコープ上の場所に出現した”.
 もし,この“直ちに”という表現が,問題の未確認反射像が,東から西に180度の走査の間に捕捉されたことを意味しているのであるとすれば,見かけの運動は,1秒間に5マイル,すなわち時速18000マイルで行われたことになる.

 この時点で,ベントウォーターズGCA基地の誰かが,レイクンヒースのRATCCに電話をかけてきて,夜間当直の主任管制官(この下士官がコンドン報告の手紙の筆者)に,そちらのスコープに“毎時4000マイルで飛ぶ目標群”が捕捉されていないかどうかを問い合わせ,第4目標のUREのコースを詳しく伝えた.この電話をかけてきた管制官はさらに,ベントウォーターズの管制塔が,“1個の輝く光点が飛行場上空を東から西に向かってものすごい速度で通過するのを目撃した”と報告していること,そしてこれと同時に,同基地上空4000フィートを飛んでいた1機の“輝く光点が同機の下方を東から西に向かってものすごい速度で飛びすぎていった”と報告してきたことなどを伝えた.
 レイクンヒースのRATCCの主任管制官はこの時点ではまだこの報告に対して懐疑的な考えをもっていたのだが,“直ちにすべての管制官たちに各スコープを用いてすべてのMTI(移動目標指示装置)”を作動させて,地面の反射などあらゆる静止目標の反射を消去しながら捜索を開始せよと命じた.
 この捜索を始めてからまもなく,管制官のうち一人が,レイクンヒース南西20〜25マイルの位置に1個の静止している反射像を発見した(地図では第5目標).この捕捉位置は注意に値する.先のベントウォーターズからの報告が伝えた第3目標と第4目標のレーダー反射像のコースの延長線上にあるからである.
 MTIは40〜50ノット以下の速度で移動しているすべての目標からの反射像を消去するはずなのに,問題のレーダー操作員は,この未確認レーダー反射像からは“まったく動きを”検知できなかった.
 そこで,RATCCの主任管制官は,レイクンヒースGCA班に電話して,同一の反射像が彼らのスコープ上にも捕捉されているかどうかを問い合わせた.するとそのGCAレーダー班も“彼らのスコープ上の同じ地点を示す位置に問題の第5目標の反射像があることを確認した”.
 レイクンヒースのRATCCすなわちレーダー航空路管制センターの管制官たちがこのUREの監視を続けていると,突然それは北北西の方向に移動しはじめた.その速度は後で彼らが計算したところによれば,時速400〜600マイルであった.
 彼らの表現によれば,“この移動には増速過程がまったく見られなかった.それは動き始めた最初の1秒から停止するまでずっとこの速度を保っていた”.
 この時点で主任担当官は,駐留アメリカ空軍司令部に連絡をとり,以後発生する事態を逐一通報した.問題のUREは,移動方向は変えたが,常に一直線上を毎時約600マイルの速度で,見かけ上加速過程も減速過程を示すことなく移動した.
 一回の移動距離は8マイルから20マイルまでさまざまであり,移動と移動との間は3ないし6分間の静止状態にあった.

 


 この経過の中で,レイクンヒースでは目標が目視されている.
 しかし,これらの目撃報告は明確なものではない.だが,ブルーブックの調査担当士官が次のように述べている点は重要視すべきである.
「レイクンヒースGCAと,RATCCの2基のレーダー,および地上の3人の目撃者の報告は,基本的に同一目標に関するものだったと認められる」
「レーダー観測者も地上の目撃者も,問題の物体が急激な加速をし,突然停止するという特異な報告を述べている事実はむしろこの点を裏づけていると見るべきだろう」
“30〜45分”後,すなわち,23時40分〜23時55分頃,イギリス空軍は1機のデ・ハビランド・ベノム型夜間戦闘機を,問題のレイクンヒース未確認飛行物体を調査するために緊急迎撃発進させた.

 


(この点に関して,コンドン報告書に掲載されたレイクンヒース主任管制官の手紙とブルーブックの報告とはくいちがっている.第一に,主任は,迎撃機はロンドンの近郊の飛行場から発進し,レイクンヒース南西30〜40マイルの地点でRATCCレーダーの捜索範囲に捉えられたと言っている.
ところが,ブルーブックの記録によれば,問題の戦闘機はウォータービーチ英空軍基地を発進したことになっている.
 この基地はレイクンヒース南西わずか20マイルのところに位置し,5000フィート以上の高度にある目標の捕捉限界が50〜60マイルに達するレーダーの捜索範囲に完全に入っているのだ.
 第二に,主任管制官は,このベノム戦闘機をレイクンヒース南西約16マイルの位置にその時静止していた未確認レーダー反射像(第5目標)にむかって誘導したと述べており,これが迎撃機が接触した最初の未確認飛行物体だったとしている.
 だが,ブルーブックの記述によれば,“問題の戦闘機はレイクンヒース上空を通過したのち,レーダーによって同基地東方6マイルの地点にある一個のレーダー目標(第6目標)に向かって誘導された”ことになっている.そしてパイロットは「輝く白色の光体を発見した.調べてみる」と伝えている.
 レイクンヒース東方13マイルの地点に達したとき,彼はレーダー目標との接触を失い,同時に,肉眼で捉えられていた白色の光体を見失ったことを,報告した(このことは問題のパイロットはこのときまで識別不能目標を視認していただけでなく,機上レーダーでも捕捉していたことを意味する)
 レイクンヒースのRATCCは,たぶんこの後で,彼をレイクンヒース東方10マイルの地点にある別の目標に向かって誘導した.そしてパイロットは,この目標を機上レーダーで捕捉し,これを“ガンロックした”と報告したのである.
 この目標が,主任当直管制官がレイクンヒース南西約16マイルに位置しているのを捕捉した問題のURE(第5目標)だったと推測される.
 以上の食い違いの除けば,ここから先の事件経過についてのレイクンヒース主任管制官の記述は,ブルーブックのファイルの記述と,細部に至るまで完全に一致している)

 

 

 ベノム戦闘機はRATCCレーダーでUREの方へ誘導された.
 それは(当直主任監視員によると)レイクンヒースの約16マイル南西,高度15000〜20000フィートの位置に静止していた.
 少し経って,レイクンヒースはパイロットに「UREは迎撃機のちょうど1.5マイル先だ」と告げた.
「了解,やつをガンロックした」(パイロットはレーダー火器管制システムのことを述べている).
 後にこのパイロットは米空軍の調査員にUREは「私が今までレーダー上で見た中で一番はっきりした目標だった」と告げている.
 ベノムのパイロットがUREをガンロックしたと言ってきたあとで,少し空白があり,それから「やつはどこへいった?そちらではまだやつを捕捉しているか」と伝えてきた.
 レイクンヒースRATCCはUREは急速に旋回しベノムの背後にまわったとパイロットに伝えた.それからパイロットは目標が背後にあることを確認し,彼は振りきってみると言った.機体の後部にレーダーが搭載されていないのでパイロットはおそらく背後のUFOを視認したのだろう.
 ベノム迎撃機のパイロットはあらゆる回避行動をとってみたが,UREを振り切ることができなかった.レイクンヒースRATCCレーダーは航空機のエコーの後ろにはっきりしたエコーを連続的に捕捉していた.これは両者に500フィート以上の間隔があったことを意味する.
 ブルーブック報告によると,“パイロットは背後の目標を振り切ることができない,と伝え,援助をもとめた”.
 約10分後,ベノム1番機は,報告によるとかなりおびえた声で,燃料が乏しいので帰投すると言ってきた.
 彼はレイクンヒースRATCCに「もしUREがレーダー上で自分の背後についてきていたら教えてくれ」と頼んだ.
 レイクンヒースの主任管制官によると,パイロットがロンドン(あるいはウォータービーチ)に向かって南南西に進路をとったとき,UREはほんの短い距離をベノムについてきただけのようだった.そしてそれから静止した.
 ベノム2番機はレイクンヒースRATCCによってUREの位置に誘導された.しかし,捕捉可能な距離まで接近する前にエンジンが故障したので基地に帰投すると連絡してきた.
 以下は2機のベノムパイロットの間の会話をレイクンヒース主任管制官が聞いていたものである.

 

 

2番機「一体何を見たんだ?」
1番機「何かを見たんだよ.でも恐ろしくて,やつが何だったのか知りたくもない」
2番機「何が起こったんだ?」
1番機「やつに後をとられてしまったんだ.俺はあらゆることをやってやつの後に回り込もうとしたが,できなかったよ.あんな恐ろしいやつははじめてだ」

 

 

 1番機のパイロットは,数秒間レーダーガンロックし,“そこに何か固体の物体が存在した”とも述べている.
 この奇妙な追跡劇のあとで,UREはすぐにレイクンヒースRATCCから消えなかった.主任管制官の話によると,「目標は2度ほど短い距離を移動した後,北方に向かいレーダーの捕捉範囲外に出た.速度は時速600マイルだった.
 我々は市外に向かう目標を北方約50〜60マイルの位置で見失った.もし,航空機つまり目標が高度5000フィート以下であるとするならば,この位置で見失うのは普通だった(このタイプのレーダー「CPS−5」の放射ローブのため)」.
 この時刻については,主任管制官は触れていない.ブルーブックファイルによると約0330Zであった.
 主任管制官はまた,“この報告で述べたすべて速度はレーダー上での距離と時間をもとに計算されている.この速度はその夜何度も計算した”と述べている.

 

ベントウォーターズ・レイクンヒース URE/UFO捕捉 1956.08.13-14

No. 時刻 レーダー捕捉 肉眼捕捉 備 考
2130Z BWGCAの
AN/MPN-11A
なし 異常伝播なし
2135-2155Z BWGCA なし 異常伝播の可能性あり
2200Z BWGCA なし 異常伝播なし
No4と同じ可能性
2255Z 1.BWGCA 2.BW管制塔
3.BW上空のC47
ほぼ同時にレーダー捕捉
異常伝播なし
No5と同じ物体の可能性

0010-0330Z 1.LHRATCC,CPS-5
2.LHGCA,CPS-5,CPN-4
3.ベノムAI
これらは同時的にいろいろな時間で行われた
地上からの観測なし
4.パイロットは3基のレーダーと
同時観測
異常伝播や多重反射なし
No4と同じ可能性

 

 

 

■考察


 この興味深いUFO事件の説明や分析は,研究者の数ほど多数存在している.この事件を調査したアメリカ空軍士官は以下のように述べている.
「私の分析結果は,この出来事は現実に起こったものであり,作り話ではない,というものである.
 3基のレーダーが目標を捕捉したという事実から,そのとき目標,すなわち物体が空中に存在していたのは間違いない.物体は驚くべき飛行特性を示しており,レーダーと肉眼で急加速と急停止が捉えられた事実は,報告内容の信憑性を高めている.観測された現象が気象,あるいは天体に起因するものだとは考えられない」
 空軍のUFOコンサルタントとしてよく知られているJ.アレン・ハイネックも,ブルーブック報告に次のように書いている.
「ペルセウス座流星群が目撃の原因であるということはまずあり得ない.なぜなら,特にその夜,非常に多くの流星が見られたと目撃者たちが証言しているからである.つまり,彼らは2つの現象を見分けられたことを意味している.
 さらに,もし,レーダーや肉眼で観測された物体の挙動が信用できるなら,隕石説も除外されることになる」

 


 コンドン報告におけるこの事例の分析では,
「結論として,ごく一般的な,あるいは自然現象としての説明は確かに除外できないものの,この事例に関する限りその可能性は低いと考えられ,少なくともひとつは本物のUFOが関与している可能性が非常に高いように思われる」
と述べている.
 この最後の文章の意味は,最近の研究者を困惑させている.この文脈においては,「本物のUFO」という言葉はまさに,その言葉通りのことを示している.物質でできた物体があり,それが(空中を移動するという意味で)飛行し,そしてその正体は未確認である.したがって,本物のUFOが存在するという結論は,たとえばUFOが地球外起源であることを示しているわけではないのである.
 コンドン報告のセクション3第5章「フィールドケースの光学およびレーダー分析」では,次のように分析している.
「要するにこの事件はレーダー肉眼捕捉ケースの中でもっとも不可解で異常なものである.UFOの挙動は明らかに理性的,知性的であり,この事件にもっとも妥当な説明をつけるとするならば,未知の起源からやってきた機械装置ということになるだろう.しかし,目撃者たちが誤認する可能性がないわけではないので,ありふれた現象による説明も完全には除外できない」

 フィリップ・クラスは(個人的なやりとりによれば)MTI装置の欠陥が原因でレイクンヒースRATCCレーダーが誤作動を起こしたと考えている.彼はレーダーの観測が説明できれば,残りは目撃者の混乱や,ありきたりの原因で説明できると考えている.

 


 読者は彼の結論が一番妥当ではないかと考えるかもしれない.しかし,ここでいくつかの問題点を要約して指摘しておく.

 


1.隕石がこれらの目撃報告を説明しうる可能性は簡単に除外できる.研究者たちも当初からこの可能性は度外視している.
2.蜃気楼説もUFOが観測された大きな角度(たとえば,同時に管制塔からと航空機から目撃されている),移動方向と運動特性によって除外される.
3.レーダーの異常伝播説も同様に全体を説明できないように思われる.ベントウォーターズ第2目標以外はすべて,明らかに風に逆らう方向か,風を横に受ける方向に移動している.このことは,何らかの地上の物体が,移動する逆転層(あるいは他の層状構造)からの部分的反射によって捕捉されたという可能性を除外する.この種の反射現象は,あたかも反射する空気の層の2倍の距離,2倍の高度のところに存在しているかのような偽の目標を作り出す.そして風向に従って,風速の2倍の速度で移動しているかのようにスコープ上に表示される.
 第2目標すなわち21時35分から21時55分にかけて捕捉追跡された一群の未確認レーダー反射像は,“時速80ないし125マイル”の速度で,ほぼ南西の方向からやってきた,とされており,同方向から吹く時速40〜63マイルの風によりもたらされる偽の目標の動きに対応した移動を示していることになる.実際の風はこのとき高度10000フィートで風向260度,風速毎時45マイル,高度16000フィートで風向260度,風速毎時63マイルとなっている.
 反射像の一群が地図上の2カ所の地点でしばらく静止していた,という報告を間違いないものと受け取る限り,これは移動大気層の反射という仮説を除外する.ただ,このベントウォーターズで捕捉された第2目標については,この原因に基づくものだった可能性はなお多少は残っている.しかしながら,この仮説は,ベントウォーターズでの他の未確認目標および,特にレイクンヒースの諸目標については完全に除外されることは明かである.
 ベントウォーターズGCAを通過した第4目標の消失はコンドン報告では“異常伝播の可能性を示唆する”云々と述べられている.このタイプの異常伝播の原因である,上空にできた層による部分反射現象は,レーダービームの仰角の6乗に反比例する反射係数に関係している(Wait, 1962, Thayer, 1970 参照).したがって,層の移動に起因する偽の目標がレーダーサイトに接近してきた場合,ビームの高さがある角度を超えたときに,信号はノイズレベル以下に低下することになる.ビーム角度がもう一度臨界値を下回ると,偽目標は反対方向に再び現れる.このことにより,仰角を固定されたPPIレーダーでは,サイト周辺5〜15マイルに目標が消失する「不可視ゾーン」が生じる.

 


 第4目標が異常伝播によるもののように受け取られるのは,次の2点のためである.
1.装置のことを熟知しているレーダー操作員は,消失が予想外のことでない限り,通常,目標の消失を報告しない.通常のレーダーの“不可視ゾーン”に入った目標であれば無視するだろう.
2.目標を2マイル東で見失ない,3マイル西で再び捕捉したというこの非対称性は,異常伝播説で説明可能であるが,一般的にはレーダーの通常の「不可視ゾーン」では説明できない.
 しかし,この例においては,異常伝播説を反証する強力な理由がある.未確認レーダー目標は優勢な風に対しほぼ反対方向に移動していたことである.
 また,未確認目標の見かけの速度をもとに計算すると,2マイル東で見失ったあと,PPIの2回転めにレーダーの西3.5マイルに再び現れることになる(最初の一回転でレーダーを越えるが,その時点では捕捉できないだろう).このように,この非対称性はPPI回転走査ディスプレイによる「デジタル的」な捕捉が原因だといえる.
 したがって,第4目標が異常伝播に起因していた可能性はまずない.そのことはコンドン報告でも結論されている.

 


 レイクンヒースでの観測(第5目標)は,さらに異常伝播では説明できない.レイクンヒースの当直管制官が述べているような複雑な移動および停止が異常伝播による反射に起因するということ(しかもそれは周波数もスキャン速度も異なる2基のレーダーで捕捉されている)は,非常に考えにくい.
 ゴーストエコーは航空機エコーの後ろに現れる──レーダーはジェット排気の雲までも追跡してしまう──ことがあるが,しかし,その種のエコーは,レイクンヒースで捕捉された未確認レーダー目標のように,決して航空機の後ろに固定された状態にはならないし,静止状態にもなることもない.
 要約すると,肉眼による観測をさておくとしても,異常伝播の可能性はベントウォーターズ第2目標に限ってあるかもしれないが,残りの報告を異常伝播によるものとすることはできない,ということである.
 これらの未確認目標の原因として,レーダー装置の故障という可能性,特にレイクンヒースRATCCのMTIが故障していたという可能性も示唆されている.MTI装置の故障により,レイクンヒースで観測されたような挙動を示す偽のエコーを生じることは,おそらくあるだろう.しかしながら,異なるタイプのレーダーであるレイクンヒースGCAによって同時に未確認目標が観測されていることや,その後ベノムのレーダーでも捕捉されているということは,この説を除外するものである.

 


 レーダーがMTIを作動させていたにもかかわらず,明らかに静止している目標が検出されたことは,特に驚くべきことではない.振動あるいは急速に回転する目標は,異なる運動形態ではあるがMTIレーダーで捕捉されうる.

 


 したがって,この事件に関して,考えられる「簡単な」説明が見あたらないということが,研究の進行を妨げているように思われる.それに,多数の重複したレーダー観測,およびそれと同時に行われた肉眼捕捉が説明の信頼性を高めている.
 しかし,これらの観測の信憑性に対して,一部問題のある状況もみられる.それは,レイクンヒースのRATCCレーダー操作員が,レーダー捕捉範囲内にあるはずの,ベントウォーターズで観測された未確認目標を捕捉していないことである(例えば,高度5000フィートの目標であればベントウォーターズの近くにある海岸線の西あたりまで捕捉可能).
 ベントウォーターズ第1目標はベントウォーターズGCAレーダーから消失したとき,ほぼまっすぐにレイクンヒースに向かっていたことに注目すべきである.
 もちろん,レーダーがそれらの物体を捕捉していなかった可能性,操作員がそれらに注意していなかった可能性,あるいは報告しなかった可能性など,いろいろな理由が考えられる.

 

 

■結論

 

 結論として,2つのかなり重複がみられる観測──最初は地上レーダーと地上および航空機からの肉眼による重複した観測,2回目は航空機からの肉眼目撃と航空機のレーダー,および2つの異なる地上レーダーによる重複した観測──があり,このことから,ベントウオーターズ−レイクンヒースUFO事件はもっとも重要なレーダー,肉眼捕捉UFOケースのひとつに選ばれるだろう.
「奇妙さ」の程度が高く,しかも情報の信頼性の高さや報告の一貫性,連続性を考慮すると,この事件は,確実に,今日知られている中で最も困惑させられるUFO事件のひとつになるだろう.

 

 

■参考文献

 

1. Condon, E.U., Project Director, and D. S. Gillmor, Editor, "Scientific Study of Unidentified Flying Objects," Bantam Books, New York, 1968.
2. McDonald, J.E. (1970). "UFOs over Lakenheath in 1956", FIying Saucer Review, Vol. 16, No. 2, pp. 9-17.
3. Thayer, G.D. (1970), "Radio Reflectivity of Tropospheric Layers," Rad.Sci., Vol. 5, No. 11, pp. 1293-1299.
4. Wait, J.R. (1962), "Electromagnetic Waves in Stratified Media," Pergamon Press, Oxford, pp 85-95.

 

 

 

このレイクンヒース事件についてのさらに詳細な分析はレーダー捕捉UFO事例の研究に記載。この事件におけるレーダー上での異常な目標の挙動をECM欺瞞によって説明している。


SSPCのUFO書籍・資料
「レーダー捕捉UFO事例の研究」 「未確認飛行物体に関する報告」 「コンドン報告第1巻」
「ブルーブックケースファイル」 「米下院UFOシンポジウム」 「コンドン報告第3巻」
「全米UFO論争史」 「ヨーロッパのUFO」


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