1.序
蜃気楼は(雲のない)大気中で光の屈折により起こる現象である.蜃気楼発生中,遠くの物体は,実際よりずれた位置に見える.遠方からの光エネルギーが直線ではなく曲がって進むために,このような像ができる.つまり,これは異常な温度勾配が原因の,大気密度の異常な歪みにより生じるのである.
蜃気楼の像は“映し出された”物体の形や色が正確だったり歪んだりする.ほとんどの場合,歪みというのは,物体の形が縦や横に延びたり,完全にあるいは部分的に反転したものである.蜃気楼で一つの物が複数の像に見えることもよくある.特殊な状況下では,白色光が屈折分光し,蜃気楼が観測されやすくなる.大気のシンチレーションにより,急激に像の位置や明るさ,色が変化することがある.観察者と対象物がどちらも静止している場合,数時間蜃気楼が見えることがある.しかし,片方または双方が動いていると,蜃気楼の像は数秒から数分間しか見えない.
有史以来,人間は蜃気楼を観察しているが,18世紀末まではほとんど研究されなかった.しかし,以後蜃気楼の性質を明確に記録するようになり,現在は多くの文献を参照できる.
ここで紹介する情報のほとんどが文献調査によるもので,蜃気楼に関する最新の情報で構成されている.この報告では,蜃気楼に関連する問題に適用できる最新の情報を提供する.
ただし,現存する資料をすべて収集し目を通しているわけではない.多くの出版物の内容,特に18世紀末や19世紀初頭のものは,その概要や歴史的概説についての記述を用いて評価している.また,蜃気楼現象の特殊な側面を考察する際に使用した文献が最新のものであることが明らかな場合は,それ以上の文献収集は行わなかった.収集した文献は1796年から1967年のものである.
文献調査でわかった,蜃気楼の主な特徴は下記の通りである.
1.蜃気楼は異常な大気の温度勾配と関連している.
2.蜃気楼の像は,ほぼ例外なく水平な視線の上下の,小さい角度範囲で見られる.したがって,蜃気楼が見えるには地形的,気象的に水平方向の視界が開けている必要がある.
3.蜃気楼には,一つの物体が同時に複数の像となって現れるものがある.この像は形が大きく歪み,変色していることがある.
4.水平面付近の蜃気楼の像が非常に明るかったり,速く移動したりするのは,屈折層のある部分の波面で,光が集光されたり干渉されたりするからである.
蜃気楼現象に関する情報は十分にある.最終的に,巨視的にも微視的にも特徴を一つの理論で説明することが望ましい.現在,光の屈折の性質は巨視的には光線理論で説明できるが,さらに詳しく扱うには波動理論を用いる.蜃気楼の微視的な光学効果を扱うにはさらに観測が必要である.集光や干渉による現象は,通常詳しく観測できない.特定の時刻における屈折領域の各部分を厳密に調べなければならないからである.
未確認飛行物体の科学的研究(コンドン報告)第3巻
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